2. 神秘体験Aと神秘体験B
神秘体験Aは、
本人が健康な状態のときに発現する。
本人が予期していない状態でそれは「突然に」始まる。
光が満ちあふれ、周囲の生命体(例えば樹木)の中にある生命が発現し本人はその衝撃に打ち震え
る。
生命の直接的把握であると考えられ、自己の存在にたいする確信が生じる。
イメージの典型的な例は
画像:ゴッホ「ひまわり」1887、MOMA, New York
神秘体験Bは
本人が精神的肉体的に過度に疲労した状態のときに発現する。
好むと好まざるとにかかわらず、「死を希求する」ことが持続的な精神状況となる。
救いのない絶望的な心的状態を維持しつづけたとき、それは突然に始まる。
暗黒のなかで打ち震え、すべての期待は破壊される。
死の直接的な把握であると考えられ、自己の非存在を確信する。
イメージの典型的な例は
画像:ゴッホ「カラスのいる麦畑」1890、ゴッホ美術館、アムステルダム。
神秘体験Aと神秘体験Bの認識は互いに独立的である。同時的な発現は決して生じない。
神秘体験AとBの記述例は次のとおり纏められる:出典については「6. 参考文献」を参照のこと。
神秘体験A
- アウグスティヌス 『告白』注3 普通の光よりはるかに強く輝いて
- 白隠 『遠羅天釜』注4 氷盤をたたき砕くよう、玉楼をおし倒すよう
- テレサ 『イエズスの聖テレジア自叙伝』注5
神の現存の内的感じ。恍惚は、翼の上に自分を運び去る
- カント 『純粋理性批判』注6 統一された統覚
- スイス人 『宗教的経験の諸相』注7
わたし自身を越えたかなたに持ち上げられる
- トレヴォーア 『宗教的経験の諸相』注8
突然、なんの前触れもなしに、私は自分が天国にいるのを
感じた
- バック博士 『宗教的経験の諸相』注9
狂喜の感じ、無限の歓びの感じが私を襲い
威厳。
- 谷口雅春 『生命の實相』注15 大生命のみ空から光線のやうに降り濺ぐ生命の 讃歌
神秘体験B
- 龍樹 『中論』注2 勝義諦
- ムハンマド 『コーラン』注16 太陽が(暗黒で)ぐるぐる巻きにされる
- 白隠 『夜船閑話』注17 心神は疲労困憊(こんぱい)し、寝ても醒めても種々の幻覚が
みえ
- ルター 『ルターと宗教改革』成瀬治注18
神は獅子のごとく、私のすべての骨をうち砕く
- テレサ 『イエズスの聖テレジア自叙伝』注19
この時間の大部分にわたって、霊魂の諸能力は働きませ
ん。ここでは、一致や恍惚において、喜びがしたように、
苦しみが、能力を停止します。
- ゲーテ 『若きウエルテルの悩み』注20
永遠に口をひらいた墓の奈落
- ムンク 『サン・クルーの日記』注21
自然を貫通する叫び
- フランスの憂鬱病者 『宗教的経験の諸相』注22
突然、私自身の存在に対する身の毛もよだつような恐怖心
・・・・ペルー人のミイラ・・・
画像:
Edvard Munch
"The Scream" 1893
Nasjonalgalleriet, Oslo
Ragna Stang
"Edward Munch,-The Man and the Artist"
Gordon Fraser, London 1979