3. エネルギー構造と量子力学的モデル

         

画像:十字架上のキリスト(部分) オーベルニュ地方 12世紀後半 ポプラ 彩色 クリュニー美術館 パリ

  前項2.で挙げた神秘体験Aの実例を分析して、河原道三は神秘体験Aに次のパターンが認められる、とした。

 

     1. 内的なエネルギーの蓄積

     2. 突然、心が跳躍する

     3. 超常的な状態に暫時滞留する。そこは光に満ち溢れている。

     4. その後、通常の状態にもどる。このとき喜悦の感情が生れる。

     5. 従前の精神状態にもどる

 

そして、これを量子力学の「量子飛躍」の状態に酷似している、と評定した。

          

 原子核を取り巻く電子のエネルギー準位には基底状態と励起状態が存在している。現象世界のエネルギー準位はエネルギー量に比例して増大するものであるが、原子の場合はそうはならない。電子のエネルギーが増大し、励起状態のエネルギー準位に到達したときにはじめて基底状態から励起状態に飛び上がる。これを量子飛躍と称する。基底状態のときと励起状態のときの電子雲が共鳴形状を変えることが原因であると考えられている。量子飛躍した電子は短時間の滞留ののち基底状態に戻るが、その際、エネルギー差は光として放出される。蛍光灯やLEDは、この量子飛躍の現象を利用している。

   人間の心にもこのような量子力学的挙動が認められ、これが神秘体験の本質だ、と説明する。

          

 上図は原子の量子飛躍の説明図である。原子の場合には、与えられたエネルギーに応じて第一次励起状態を越える第二次、第三次励起状態が存在するが、人間の精神については第一次を越える励起状態(二次、三次)は存在しない。

 さらに、現実問題として、「人間の心は揺れ動く」ことから、心の状態を次のグラフに譬えた。心の場合にはマイナス値が存在することに注目せよ。

               

 量子力学とはことなり、人間の心の場合には、(+),(-)両方向で量子飛躍が存在すると河原道三は考える。神秘体験Aとは(+)領域での励起準位に飛躍した状態で、神秘体験Bとは(-)領域での励起準位に飛躍した状態であると説明する。 (+)の場合であっても(-)の場合であっても、励起状態では人間は思考能力を失い、短時間ではあるが、あたかもイメージを見つめさせられる状態となるのが特徴である。

 

 神秘体験AおよびBは、その内一つだけを経験する人もいるし、二つとも経験する人もいる。二つをともに経験する場合は、その履歴順序を問題としなければならない。AのあとにBを経験するのか、あるいはBを経験したあとでAを経験するかの差である。これらの区別と順序により当人の性格にあたえられた影響のカテゴライゼーションが必要となってくる。

画像:タペストリー クリュニー美術館 パリ

 

 

次へ