京都の友達

2016/04/06

 

 今日は化学品の話をしましょう。

 4、5日前に京都へ行って満開の桜を楽しみながら、私は一人の友人と会合してきたのです。

 

 

 昔、今から40年も前に、私はドイツのデュッセルドルフ駐在で第三代目の化学品部長を拝命していました。私はもともと有機化学品の担当でございまして、繊維原料などのバルク化学品が専門なのですが、日本と欧州間を結ぶ運送賃を負担できる商品などほとんどないですから、なにもしなければ「生きながら餓死」するという苛酷な商い環境でした。だからダボハゼのように何にでも食らいついて餓死だけは免れようと毎日必死の努力を続けたのです。

 

                 

              画像:モノメチルヒドラジンの構造式

 

 そのときに商売可能性を研究したアイテムの一つがヒドラジンでした。ロケットの燃料として戦略物資に指定されていましたが、商売とは商機あるところ必ず成立するという商社規範にしたがい、なりふりかまわず徹底研究をしたのです。ドイツではメッサーシュミット、フランスではアリアンヌ・スペースに売り込みをかけました。商品はUDMHとMMH。UDMHとはUnsymmetrical Dimethyl Hydrazine、MMHとはMonomethyl Hydrazineを意味します。ロケット噴射に使われる液体燃料です。これらの物質を酸化剤と接触させると自己点火して爆発的に燃焼するのです。その当時は欧州ではロシアが主導でUDMHが一般的な燃料だったのですが、毒性があるので、その後は次第にMMHが主流になっていったのです。

 

           

             画像:液体燃料ロケット(二液式)の模式図

 

 昔のことで詳しいことは忘れましたが、メッサーシュミット向けに若干の(品質テスト用)MMHの売り込みを成立させました。私たちはメッサーシュミットの宇宙科学部門工場内部も見学させてもらいました。メッサーシュミットという会社は第二次大戦の頃ロンドン空襲に使ったV2のメーカーでしたからすべてのロケットが保存されていて壮観でした。このころ、同じ会社で部門は違うが私の「友人」との関係が成立したのです。彼は炭素部でロケットの燃焼室で使う炭素材の納入を研究していたのです。

 

            

             画像:メッサーシュミットのV2ロケット

 

 それからなんと40年過ぎたのですが、私のお友達は会社を退職したあとも、退職金を削りながら情報を集め続けていて、やっと最近「商売が回り始めた」というのです。

 

 

 現在は宇宙産業の時代です。情報産業は宇宙空間からの情報に依存する時代ですから、沢山の人工衛星が打ち上げられます。日本のロケットは非常に高価でして経済的に間尺に会いません。だから、日本企業はフランスのアリアンヌ・スペースの仏領ギアナかロシアのバイコヌールを使うのです。

 

               

       画像:人工衛星の姿勢制御用液体燃料ロケット式、スラスターロケットエンジン 

       噴射ノズルが2基ペアになっているのは、片方が故障しても確実に動作させるため。

 

 私の友達はこの打ち上げサービスを日本で提供しているのです。どこと組んでいるかは企業秘密ですから秘匿しておくことにして、彼に頼めば人工衛星を安く打ち上げてくれるのです。最近はUDMHは使わず、安全なMMHを使うことは勿論、打ち上げ失敗の場合の保険付保も完備したシステムで、打ち上げ代金はざっと一件1億円。大体4%が彼の口銭らしいですから一件打ち上げれば四百万円の収入があるというのです。A社、B社、C社あたりがお客らしいですが、MMHという超危険爆発物を仏領ギアナやバイコヌールまで安全に運び、現地充填するという仕事は、いかに日本企業でもできませんね。大体人工衛星の重量の半分は姿勢制御に使われるMMHだというのですから、MMHはいまや人工衛星ビジネスの中心的存在になったようです。

 

 

 そういうわけで京都で楽しく桜見物をしました。白川沿いが綺麗でした。

 

 では皆様ご機嫌よう。